バケツ一杯のお風呂

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仕事がら、海外駐在や出張の機会が多い。この仕事を始めてもう15年ほどになるが、パスポートは三冊目だ。最初はヨーロッパだったが、中東やアフリカにも何年か住んだ。西アフリカのとある国で働いていたときは、お湯が出なかった。というより、水すら十分に手に入らなかった。 副所長として、ジャングルの奥にある村まで、事業を視察しにいくのも、当時の私の仕事だった。学校建設や井戸堀り、職業訓練や農業支援まで、紛争後の国では復興事業がたくさん必要だ。月の半分は、地方視察に宛てていた。大変だったのは、暑さである。当地の蒸し暑さは日本の真夏より酷く、室内でもクーラーがあまり効かない。滝のように汗をかいては、ミネラルウォーターを飲んで、干からびないようにするのがやっとだった。夕方には、一番近くの事務所敷地内にある宿舎で、米と肉のピリ辛煮込みにありつくことができるが、あいにくお風呂もシャワーもない。 バケツ一杯の水とやたらハッカの香りがきつい石鹸一つを手渡され、頭から足の先まで洗う。水の配分を間違うと大変なことになるので、気をぬけない。
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