STORY.1 始まりの音

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 久しぶりに名前を聞いた、柏田美香。  何だか変な気分だ。頭に霧が掛かったように視界の方もぼんやりする。  いつだったっけ。  美香とは結構仲が良かった。  顔は好みだったし、スタイルも良かったし、何より気さくな感じで話しやすかった。男と付き合っている様子も、付き合ったことがあるという様子もなかったから、こいつも俺と同じで恋愛とか興味ないのかな、なんて思っていた。可愛いのにもったいないな、とも自分のことを棚に上げて思っていた。  そうだ。確か、疎遠になったのは俺のせいだった気がする。  中2の3学期、2月くらいだったろうか。美香と映画に行く約束をした。けれど俺が遅刻して、結局映画は観れなかった。  彼女が変わったのは、そのあとくらいからだったと思う。  簡単に言えば、美香はどこかよそよそしくなった。廊下ですれ違っても目を合わせようとしないし、あちらから話しかけてくることもなくなった。  映画のこと、そんなに怒ってるのかな。  そんなふうに思ったけれど、あのときはちゃんと謝ったし、こんなことくらいでここまで態度が急変するだろうかと考えた。  結局、何だかそのときから美香とは疎遠のままだ。俺の方もそんな彼女の態度に苛ついたりして、意識せずとも彼女を傷つけてしまったことがあった気がする。
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