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「翔子!逃げるぞ!」
翔子の手を取ると、彼女はすぐに立ち上がり、僕と共に走り出した。
外に出るとさっきは暗くて見えなかったが、大きな車が二台止まっており、組員が三人程立っている。
彼らは僕らを追いかける為、車に乗り込む。
「こっちだ!」
僕らは車の通れない、木々が生い茂る中に入った。そして、追いかけられた時のことを想定して隠れ場所として考えていた洞穴に飛び込む。
息を殺し、耳をすます。
追いかけてくる気配は無い。
ふうっと息を吐く。
翔子に目を向けると、彼女は泣いていた。
「翔子……」
ごめん。
自分が追われている人間であることを隠していて、ごめん。
巻き込んでしまって、ごめん。
謝罪の言葉を口に出そうとする。
けれど言葉よりも先に、懐かい痛みが頬に走った。
「どうして、私を置いて逃げなかったのよ!!」
よく見ると、顔に傷が出来ていて、服も汚れ、髪もくしゃくしゃ。
「ばかばかばか!」
そんな彼女は、僕の秘密を責めはしない。
「あんたが居なくなったら、私、生きてる意味ないんだから……」
彼女は自らの額を僕の胸に当てた。
震えが伝わってくる。
「ごめんね」
僕は、これまでの事、これからの事、全てを纏めて頭を下げた。
彼女はごめんの意味を一瞬で理解すると、何度も首を横に振る。
「やだよ。やだ。ずっと一緒にいる」
「翔子、それはダメだ。これから僕らはお別れをしないといけない。でも、もし三年後に僕がまだ生きてたら、またここに戻ってくる」
翔子は僕の襟を掴んだ。
「もし、じゃないよ!絶対だよ!絶対戻ってくるって言え!!」
「翔子……」
「言わなきゃ離さない!私は絶対離さない」
振り払おうと思えば振り払える。
けれど僕はしなかった。
これは参った。負けだ。
そう思ったから。
「分かった。絶対戻ってくる。もう逃げる必要もない状態で、必ず」
翔子は襟から手を離す。
「待ってるからね」
裏切れない約束をした僕は、前を向く。
彼女は力無く立ったまま、ずっと下を向いていた。
洞穴を出て、走り出す。
息が切れそうになりながら、それでも走る。
翔子とまた会う日まで、僕は走り続ける事を誓ったのだから。
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