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翔子のおかげで、生きる事に前向きになった僕は、仕事を探し始めた。
今あるお金はいつかは尽きてしまう。
お金が無くなると生きてはいけない。
けれど、僕は都会には出れない。
いつまた、追い掛けられるか分からない。
僕は村の中で仕事を探すしか無かった。
この地で出来る仕事は限られている。
まずはお手伝いからと、村人達の農作業に手を貸すところから始めた。
当然、はじめはお金を貰える事は無かったが、段々と村に馴染み始めると、夜ご飯に誘われたり、お小遣い程度のお金を貰えることも増えてきた。
気付けばあちこちの田んぼや畑を行ったり来たりするようになった。
生きることの尊さに気付いた僕は、人に頼られ、支え合うことの喜びを知った。
「最近、楽しそうね」
「楽しいよ」
仕事が終わり、陽も落ちかける頃、ボロボロの家に戻ると必ず翔子が待っていた。
「お金、増えてきた?」
「全然。けれどお金は必要以上には要らないんだ」
「どうして?」
「欲しいもの無いもん。翔子は欲しいものあるの?」
翔子は両手を目一杯に広げる。
「私はいっぱいあるよ。家も欲しいし車も欲しい。大きなテレビも欲しいなぁ」
「翔子らしいね。けれどどれも幸せを運んではくれないよ」
僕は都会に住んでいた頃を思い返す。
立派な家もあった。誰もが驚くような車もあった。大きなテレビも家に何台もあった
それでも幸せではなかった。
「じゃあ、真也に幸せを運んでくれるものはなに?畑を耕す桑?」
「たしかに桑を持ってる方が幸せだね」
僕らは星空に届きそうな声でケタケタと笑った。
ある日、昼食の後少し時間が出来たので家に戻ると、翔子の姿があった。
彼女は川に向かいながら、地面に指で何かを書いているようだった。
そして書き終えると土を集め。お団子のように丸めては川に投げ捨てる。
昼間から僕の家に来ているだけでなく、奇妙な行動をしている彼女を、後ろからそっと覗き込む。
「なにしてるの?」
「ひゃっ!!」
漫画のように綺麗に驚いた彼女は尻餅をつき、そのままの勢いで背中がぺたんと地面に触れるまで転がった。
地面には"す"と書かれている。
「す? す、て何?」
翔子は顔を真っ赤にしながら、頬を膨らませる。
「最低! 変態! ストーカー!」
彼女はプイッと顔を横に向けると、僕の質問に答える事なく走り去った。
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