第三章 不機嫌プンプン丸な山田さん

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 文字を打つのが面倒になって電話に切り替えた。ゆいさんはスピーカーホンにしているようで、スマホの向こうからスマブラの音が聞こえた。私の話を聞く気はあるのだろうか。 「は? 押したやんクソコントローラー」  ないらしかった。続く罵声から推測するに、ガードボタンを押したと思ったのに先に敵の一撃が入ってそのまま即死コンボを食らったようだ。別にいいし、一方的に愚痴りたいだけだから。 「忘れてた、ですよ。まだ家にいるとかぬかしてんの。こちとら陽くんの録画泣く泣く切り上げて出てきたってんのにどういうつもりよ」  思い返してみれば奴は謝罪を一言も口にしなかった。また頭が沸騰しそうになる。 「おしゃれもしたんだろ、一応?」  聞いちゃいないと思っていたのに不意にまともな返事が返ってきたことに驚いて、かえって少し落ち着いた。 「TPOはわきまえます」 「結局会ったわけ?」  会えたか、ではなく会ったか。会わないなら会わないでいいと思っていたことはお見通しらしい。 「会いました。余計腹立ったけど」  コントローラーのスティックを激しく弾く音。ゆいさんが猛攻を仕掛けているのだ。 「自慢話が多いし。売上何位だったとか忙しくて寝てないアピールとか。興味ないっつの。店員さんには偉そうにため口吐くし」  そういう奴と一緒にいるとこっちが恥ずかしいよな、とゆいさん。まさにその通りで、店員さんに申し訳ない気持ちだった。 「一応こっちも何か話さなきゃ悪いと思って前に友達と行った温泉旅行の話したら、『でもさー』から始まってこっちの温泉の方がいいよ、料理は素材が云々、サービスがどうのこうのと、大層な批評をご披露するわけ。あんたの意見なんか求めてねーわッ」  なぜそこでへーそうなんだ、と話を聞く側になれない。なんでもかんでも自分の意見を突っ込まなきゃ気が済まないのか。 「いるよな、人を苛立たせる天才みたいな奴。お疲れ」  ゆいさんがすとんと落としてくれたので少し溜飲が下がった。話を聞いて欲しい時には聞き役になり、言って欲しいことをさらりと言ってくれる点は彼の長所だと思う。本人には絶対言わないが。 「は? 押したやろが!」  どうやらコンボミスして死んだらしかった。
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