第二章 ご機嫌ルンルン丸な山田さん

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 昇天中は時間の流れが早いらしく、帰りの新幹線はあっという間だった。改札を出てエスカレーターを降りる。その先のステンドグラスを見ると急に現世、否、現実に引き戻される感覚に襲われた。  嫌だ!  もう少し余韻に浸っていたくて、目を閉じて陽くんの笑顔、声、手の感覚を脳内再生する。手は握手モーション。そう、この手に陽くんが触れてギュっと握ってくれたんだ。陽くん潔癖症なのに……ああ! 握手した後に目元ヒクつかせながらアルコール消毒してる陽くんが見たい! 「お前オバQみたいな顔で何やってんの」  はっと目を開ける。現実とはかくも残酷である。人の唇をオバQ呼ばわりする人間を私は一人しか知らない。 「どっちかってばゆいさんのが似てますよねハゲ」 「分かる、最近髪の毛抜ける」  なんでこの幸せな日にゆいさんに会うんだよ。落差がものすごい。 「今九時ですよ、こんなとこで何やってんすか」 「LINEしたやん?」  スマホを見ると確かにメッセージが来ていた。『帰ったらメシ行くべ』知るかハゲ。 「え、待ってたんすか? ストーカーかよ、変態。幸太さんとかあっくんと遊んでると思ってた」 「幸太は夜は彼女に会うって。あっくん明日シフト早いらしい」 「なるほどね、一緒にメシ行ってくれる人が私しかいないと」  ゆいさん友達いないですね、と大げさに鼻で笑う。 「ホンマそれ。お前フットワーク軽いから誘いやすい」  フットワークの軽さには自信がある。自称フッ軽おばさん。 「てか今日のやまちゃんかわいくね?」 「そらそうよ陽くんよ」  イベントがあると簡単に上がる女子力、しかしなにもないと絶対に上がらないそれもまた女子力。
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