桜の木の下で

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「これで23勝か」桜の幹に背を預けるような体勢で少年は座り込んでいた。 「なにが? 」その少し離れた所で同じように座りながら少女は目だけで少年の方を見る。 「これまでのヨシノとの戦績。まだ負け越してるけど」 「……あんたよく覚えてるわね。まあ私の勝ち逃げだけど。最後勝てて良かったじゃない」 「いや最後じゃないよ」 少女はため息をつき「……あんたねぇ、知らないかもしれないけど私明日、本家に行くことになってるのよ?」 「知ってるよ。本家跡継ぎの結婚相手としてだろ?その上で最後じゃないって言ってる」少年は欠伸をしながらそう答えた。 少女は鳩が豆鉄砲食らったような表情になり「……話が読めないんだけど?」 「俺の家の古い掟に、決闘で勝った他流派の異性を結婚相手に貰ってもいいってのがあったんだ。なんか過去、男ばかり生まれてしまったときに勢いで作った物らしいけど。空文化してたけど思い出してね。さっき俺が勝ったからとりあえず許嫁になってもらう」 「……要するにあんたに嫁になれって事?」 少年はごほんと、わざとらしく咳き込むと「い、いやそういう意味じゃなくてとりあえず形だけでもそういうことにしておけば、他流派の掟ってことになるし本家の方も強くは言えないだろ?」そう言い、気まずくなったのか顔を背ける。 「へぇ……、そんなに私と離れたくなかったの? 」すっと少年の方へ近づく。 「いやまだほら俺勝ち越してないし。そんなんじゃないし」 少女の声のトーンが下がり、耳元で囁くように「……ねぇ、重影?」と少年の肩を叩く。 少年がそちらに振り向こうとすると少女は少年の頬にキスをした。 「?! 」 「ありがとね。また今度相手してあげる。」にっこりと笑い、少女は公園の出入り口へと上機嫌に歩いていく。 顔を真っ赤にさせながら少年は、公園から少女が出ていくまでキスをされた頬を手で押さえたままだった。 そして誰もいなくなった公園の中、少年はどくどくと早い鼓動の心臓と頬を押さえながら「……ばれてないよな? 」とそう呟いた。
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