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3月の夜更け、運動公園―――とはいっても夜ということもあり人はおらず電灯だけがぽつりと立っている―――の中にある大きな桜の下で2つの人影を月明かりが照らしていた。
桜の枝葉から差し込む月光は2つの人影が年頃の少年と少女と言うことを教えてくれる。
「なによ急に呼び出したりして。私荷造りとかで忙しいんだけど」目を引く桜色の髪をポニーテールにしている容姿端麗な少女は、苛立ちを隠そうともせずに前方の少年を睨み付けていた。
「知ってるよ。だから呼び出したんだ」
当の睨まれている少年はどこ吹く風と言った様子で真正面から少女を見返す。
「しばらく話さない内に性格悪くなったわね……。早く帰りたいから、用があるならさっさと済ませて欲しいんだけど」
「お、話が早くて助かる」
少年はすっとファイティングポーズを取り、「決闘だ!主桜院ヨシノ! この山茶花重影と戦え! 」
「……はぁ? あんたマジで言ってんの? 」
「本気だよ俺は」
「……小さい頃みたいに泣いたって知らないからね」ヨシノと呼ばれた少女は、半身になりながら腰を落とし、左腕を伸ばすと右拳を腰を添えるようにして構えを取った。
「あの時とは違うだろ? ……俺もヨシノも」
それが二人の合図だった。
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