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俺は細かくステップを踏みながら自身の間合いへとじりじり詰めていく。
それを見てもヨシノは構えたまま微動だにしない。
完璧に迎撃態勢といった様子だ。
だからといってこちらも動かないわけにはいかない。
すっと息を吸いあと半歩でジャブの届くといった所まで踏み込んだ瞬間、眼前へと拳が飛んできた。
「っ?! 」上体を大きく反らし、寸でで避ける。
危なかっ……いやうかうかしてたら次の攻撃がくる!
素早く上体を戻し次の攻撃に対してガードを固める。
瞬間ヨシノの手刀が左腕へと直撃した。
あの腕でなんでこんな重い一撃が放てるんだ?ミシミシと骨が軋むのを感じながら歯を食い縛る。
……いや待て、左腕を攻撃に使ったと言うことは今防御は薄いはず!
腕の痛みを必死に堪えながら、渾身の右ストレートをヨシノの顔辺りへと振るった。
「……あんたなめてんの? 」だが振り抜いた拳は虚しく空を切っただけだった。
首を傾け拳を避けたヨシノは先程とは姿勢を変える。
背筋を伸ばし踵を揃え爪先を少しだけ開いた独特のフォームには見覚えがあった。
「決闘申し込んできたのはあんただからね」
周りからふわりとした柔らかく暖かい風が散っていた桜の花びらを巻き込み、ヨシノの拳へと収束していく。
冷や汗が首筋を伝う。
俺が咄嗟に取れた行動は、胸の前で腕を交差させ衝撃に備える事だけだった。
瞬間、俺の体は暴風と共に大きく宙を舞う。
そんな状態から見えるものは直立の態勢で右拳を突きだしたヨシノとその後ろの桜だけだった。
風でたゆたう髪が周りを舞い散るピンク色の花弁と調和し、そんな状況にも関わらず綺麗だと思わせられた。
それに見とれていると、突然背中に衝撃が走る。
空中遊泳は終わったようだった。
「いっ……! 」恐らく着地の際痛めたのだろう、背筋に走る鋭い痛みに歯噛みする。
「あんたまさか、四気も使わないで私に勝つつもりだったの? 」
呆れた表情で此方へと歩を進めるヨシノを尻目に、ヨシノの先程立っていた場所を見る。
そこにはくっきりと桜の花びらのような跡が残っていた。
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