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「あんたもう降参したら? 私も暇じゃないし、あんたもこれ以上痛い目合わなくて済むから、あんたも私も得すると思うんだけど」ため息をつきながら少女は彼を見下ろす。
「いてて……それは嫌だね。なによりこれ以上痛い思いはしないつもりだし」腰をさすりながら立ち上がると構え直す。
その瞬間、先ほどとは違う鋭く冷たい風が二人をすり抜けた。
「寒いんだけど? 」手を振り温風で自身の周りの寒風を吹き飛ばしながら少女は彼を睨み付ける。
「しょうがないだろ? 俺は氷なんだから」苦笑いを浮かべながら後ろに飛び退き少し距離をとる。すると彼は両手を軽く開き、手首を揃え指を伸ばし花を形作り、そのまま彼女へと指先を向ける。
パキパキパキと言う音と共に山茶花の花冠を模した氷塊が手に挟まれるように現れた。
そして間髪入れずにそれは放たれた。
高速で飛来するそれを見て、少女は少し驚いたようにし、「へえ器用なことするじゃない、感心したわ。……でもね、それじゃ私は倒せない! 」先程と同じ構えになると、風を纏わせた手を横凪ぎに振るう。
それに氷が触れた途端、粉々に砕かれた。
「正面からの一発じゃ無理か」重影は両足にぐっと力を込め大きく左側へと飛んだ。そして氷の弾丸を放つ。
今度は右、と思えば氷で足場を作り上から。
前後左右へと動き多角的な射撃で的を絞らせないように、そしてとにかく隙のないように密度の高い射撃を繰り返す。
だがどの弾丸も彼女の間合いに入った途端、小さな氷片へと変わる。
すべては少女の手に打ち落とされた。
周りの土が氷でうっすらとコーティングされはじめた時、山茶花の霰は止んだ。
「あんたのそれじゃ、私の防御を穿つことは出来ないみたいね」ふふんと満足げに少女は鼻をならす。
「……そうかもしれないね」荒い呼吸を落ち着かせようとしながら先程と同じように射撃体勢をとる。
「だけど、今度のはどうだ? 」3発同じものが放たれた。
「何回やっても無駄よ」少女は先程と同じように対応しようとする。
その時、ぼそりと少年は呟いた。
「…… 山茶花は散るんだ、椿とは違って花びらが」
バキバキバキッと言う音と共に独りでに氷が砕けた。否、花弁として一枚ずつ分かれたといった方が正しいだろう。
「……え? 」少女の手が空を切る。
その瞬間分かれた氷の花弁達が少女に襲いかかった。
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