桜の木の下で

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「……もしかしてやりすぎた? おーい生きてる? 」 吹き飛び方が想像以上だったのか申し訳なさそうに少年に問いかける。 「生きてるよ」咳き込みながら立ち上がった少年は口から血をぺっと吐き出す。「飛び道具でどうにかしようとした俺が馬鹿だった。……なぁヨシノ? 」 「なによ? 」 「次が最後だ。 本気で行くぞ! 」そう叫ぶと両拳を固く握りしめ冷気を込める。 「さっきの訂正するわ。……あんたやっぱ変わってない」と苦笑いを浮かべ「来なさい! あんたの本気ねじ伏せてあげる! 」それに呼応するかのように少女も両腕に風を纏わせ、迎撃体勢へと入る。 少年が土を大きく蹴ったのはそれとほぼ同時だった。 後一歩で拳が届かんとした時、ヨシノは回転を始める。 瞬く間に竜巻へと化したそれは、先ほど見たあの技だ。臆せずそれに拳を数発叩き込むが軽々と弾かれた。 (畜生……これじゃ埒があかないな)ステップで後ろに下がり考える。突破する方法を。 その時頭に浮かんだのは小さいとき良く練習していた技だった。 ……そういやあの技の練習ヨシノに、付き合ってもらってたな。脳裏に懐かしい記憶が甦った。 あの時は全然駄目だったけど今ならいけるか? などと考えていると「ねえ、本気でくるんじゃなかったの? 」 からかうようなヨシノの声が耳に届く。 俺はそれを無視し、目を瞑った。 (とにかく集中だ……)深呼吸をし、精神を落ち着かせ最大限の四気を練りあげる。 そして俺は竜巻に立ち向かうように地を強く蹴った。 竜巻へと近づくにつれ、更に両拳へ集まる冷気が増す。 少年の周囲が凍り付き始めた時竜巻と少年の右拳が衝突した。 竜巻に大きく腕が弾かれる。 だが竜巻に微かな揺らぎが生じたのを少年は見逃さなかった。 「うおおぉ!! 」 右左と冷気を纏った拳を絶え間なく叩き込む。 その揺らぎは徐々に大きくなり、そして遂には凍てつく風が竜巻を食い破った。 竜巻が霧散し、そこには驚愕の表情を顔に貼り付けた少女。 そんな少女の鼻っ面に拳が迫る。 眼前で拳を止め「俺の勝ち……だろ? 」肩で息をしながら少年は言う。 「残念だけど……私の負けみたいね」 両手を上に上げ少女は降参の意を表した。
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