いつかを夢見て心に描いた未来のキャンパス

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 こんなもの、捨てたいな。  子どもの落書きみたいな粗末で下手くそな絵だ。捨てるのは簡単。だってもう苦しかったから、やめてしまえばよかったことなんだ。  そうしたら、今も孤独でいることなんてなかった。年相応に遊んで、成長して、新しい出会いがあって友達ができた。素朴で他愛のない当たり前のことかもしれない、とても眩しい幸福があったかもしれなかった。  僕は心に飾ったキャンバスを捨てきれず、いつか来たかも知れない幸福を捨てて、孤独に戦ってきた。  今、やめてしまえば、僕はその幸福を手にする事ができるだろうか。  何度めか忘れた葛藤。  僕はキャンパスから手を放す。捨てられるわけないじゃないか。僕は、この夢があったからこそ、あのとき笑っていられたのだから。  悔しさを噛み締めて、キャンバスの前に立ち尽くすしかない。  涙はもう流れてくれない。僕は、僕を許せない。  ――俺が、絵で。  ――俺がプログラム。  ――じゃあ、お前はシナリオ。いつも書いてるもんな。  ――……僕が……?  手放すな。  捨てるな。  僕は顔をキッと引き締めてキャンパスを睨み上げる。  見ていろ。いつか辿り着いてやる。  いつか夢見た幸福を描いた未来の先にある世界に。     
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