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ーーそれから七日。
瑠璃丸は『招き堂』に通っては風呂の練習をしていった。中でも、林檎の湯は気に入ったみたいだったぜ? 今じゃ湯船にざぶん、頭に手拭い乗っけて鼻歌よ。
「やあ、福之助さん! 今日もいい湯をありがとうございました。すっかり長湯してしまって」
「いいんですよ。どうぞ好きに使ってください。湯あがりに縁側で冷たい麦茶はどうですか?」
薄雲広がる空が、茜色に染まってゆく夕暮れ時。我が家へいそげと羽ばたくカラス。
麦茶の氷がカランと響いた。
「福之助さん。ぼくがまだ子猫の時の話です。聞いてくださいますか?」
「ええ、もちろん」
瑠璃丸は夕日が映る氷に視線を落とした。
「母さんには孫がいます。とても小さな女の子です。ある日、ぼくを風呂に入れると言い出し、母さんの腕の中から奪うようにぼくを抱え・・・・・・。あろうことか、お湯が張られた湯船にぼくを投げ入れたのです。溺れたぼくは必死に手足をバタつかせ・・・・・・。それからなんです。水が怖くなったのは」
「そうでしたか。思い出すのは辛かったでしょう。よく話してくださいました」
「福之助さんのおかげで、昔話も出来るようになったのです。ただ・・・・・・ひとつだけ心配事がありまして」
十分だと思うがな。何が不安なんだ?
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