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「あのう・・・・・・」
小さく遠慮がちな声の主が、戸口から顔を半分出して覗いている。
「『招き堂』の福之助さんという方は、こちらに・・・・・・?」
「はい、それは僕の名前ですよ」
「あなたが福之助さん・・・・・・! やあ、本当だ。噂通り、ぼくの言っていることが伝わるなんて驚いた」
「初めは皆さんそう言います」
「実はその、折り入って相談したいことがありまして」
「なるほど。まあ、立ち話もなんですから遠慮せずにどうぞどうぞ」
縁側へと通されたその客は緊張した面持ちで、茶の用意をする福之助をじっと見ていた。時折溜息を吐いているさまは、いかにも悩みを抱えている奴の沈んだ雰囲気をかもしだしてやがる。
「さあさ、召し上がってくださいね。頂き物ですが、金平糖と桜茶です」
「あ、ありがとうございます。これはこれは・・・・・・素敵なものを」
様々に彩られた星型の砂糖菓子。ひと粒口に放り込み、カリカリ歯ごたえを楽しむと、舌の上でじんわり広がる甘い味。
湯飲みに浮かぶ桜が、ふわりと花開く旬を愛でながら、ほどよい塩気に舌鼓。ほんわり暖けぇ春を満喫しちまった。
どうやらそれは、客も同じ様子。
さっきまでの緊張がほぐれて、笑ってやがる。
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