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「申し遅れました。ぼくは瑠璃丸。老夫婦の元で暮らしています。先月この町に移り住み、福之助さんの噂を聞いたのです」
灰色で艶のある滑らかな毛並。若いその猫は丁寧に語り始めた。
「そうでしたか。それで、瑠璃丸さん。相談があるとおっしゃってましたねえ」
「はい。もうずいぶんと前から、それこそ物心ついた時からの悩みなのです」
瑠璃丸は縁側の木目に視線を落とした。
「・・・・・・水が怖いのです。怖くて怖くて仕方ないのです」
「水が。ふうむ。猫はたいがい水が苦手なものではないですか?」
俺も怖ぇってほどじゃあねぇが苦手かもな。毛が濡れるのがどうにも気に入らねぇし、何より乾くまで感覚が働かなくなるのが困りものだが。
「それがそのう、お恥ずかしい話なのですが・・・・・・その比ではないのです!!」
絞り出すような声で訴える瑠璃丸。その顔は真剣そのものだ。
「ーーというと?」
「水を張った桶に入れられたり、シャワーをかけられた途端・・・・・・! もう自分ではどうすることも出来ないほど取り乱してしまって。我を忘れてバシャバシャと暴れ、叫び、転がるようにそこら中を駆けずり回って。それだけでも主人にとっては大変な惨事だというのに・・・・・・」
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