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息は荒く、全身の毛をぶわりと逆立てこちらを覗く。
「ふー・・・・・ーー! ハッ!? 福之助さん、ぼくは・・・・・ッ!? ああ、すみません!! 床が水びたしだ!」
「いいんですよ、床なんて。そんなことより落ち着いて。ゆっくりこっちにお戻りなさい」
「・・・・・福之助さん。ぼくは自信がないんです」
我に帰った瑠璃丸は、とぼとぼと縁側へと戻ってきた。
「大丈夫です。さあ、座って。少しお話ししましょうか」
福之助は手拭いで濡れた足を拭いてやり、瑠璃丸の横へ腰を下ろした。
「水が怖いとおっしゃいましたね」
「はい。・・・・・とても」
「この柚子湯も、怖いですか?」
「駄目でした」
ぶんぶん首を横に振る。福之助は湯に手を浸し、すくいながら言葉を紡いだ。
「恐怖だけにとらわれてはいけません。さっき香りを嗅いだでしょう? 湯の温もりも感じたでしょう。どうです、心に聴いてみては?」
「・・・・・ああ、そうだ。ぼくはこの湯が素敵だと、いい香りだと」
ハッとして湯を見据える瑠璃丸。その瞳から恐怖の色は去っていた。
「もう一度・・・・・もう一度、足を入れてみてもいいですか?」
「もちろんです。何度だって歓迎ですよ」
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