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瑠璃丸は静かに桶の前に座った。ぷかりと浮かぶ柚子を見つめ、瞼をとじる。ゆっくりと・・・・・深く、深く、息を吸い込むと、優しい笑みをこぼした。
「ああ・・・・・やっぱり素敵な香りだ。爽やかで温かい。こんなに穏やかで心地良いものから逃げていたなんて・・・・・」
うっとりと瞼を持ち上げ、湯に両の足を差し入れる。ちゃぷんとまあるく波紋が浮かびあがり、そのままそうっと沈ませた。
どうだ、見てみろ福之助。まったく、幸せそうな顔じゃあねぇか。
「ほぅっ・・・・・」とひとつ、夢心地。
「あぁ・・・・・。湯の温かさが、足の先っぽから尻尾まで、じっくりじんわり染み渡っていくようです・・・・・」
「瑠璃丸さん、お湯加減はどうですか?」
「福之助さん・・・・・! はい、とってもいい湯加減です。ありがとうございます。本当にありがとうございます!」
「いえいえ、お礼なんて滅相もない。瑠璃丸さん。あなたが自分で踏み出した一歩なんです。自信を持ってくださいね」
福之助は、謙遜する瑠璃丸の額を撫で、手拭いを渡してやった。汗を拭くふりをして、目尻からぽろりと溢れた涙を拭う瑠璃丸の姿。
風呂は不思議だ。体だけじゃねぇ、心もほぐしてくれるものなんだな、福之助よ。
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