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父さんが北海道の冬景色を描きたいと言って、この地にやって来たのは、かれこれ三ヶ月ほど前のことだ。
放浪の画家、なんていうほど格好良いものじゃないけど、僕の父さんは全国の風景画を描いている、いわゆる絵描きだ。
依頼されて絵本の挿絵なんかを手掛けたり、デザイン系の仕事を受けることもあるけど、基本的にはキャンバスと絵の具を片手に全国各地を巡って、現地で描いている。
そしてある程度の数がたまると、個展を開いたり、画廊に持って行って絵を売るんだ。
父さんの絵は綺麗で優しい。
見ていると気分が落ち着くような穏やかなものが多い。
ただ、さほど有名ではない、と思う。だから一枚の絵の単価だって、そんなめちゃくちゃ高額じゃないはず。
ということはその分、数を稼がなきゃいけないからか、ほぼほぼずっと旅続き。
それでもまだ母さんが生きていた頃は、父さん一人で出かけていたので、僕は母さんと二人で父さんの帰りを待つ、という生活をしていたから、気分的には単身赴任っていうのかな。そんな感じだった。
でも数年前、病気で母さんが亡くなってから、父さんは絵を描くための旅に僕も同行させるようになった。
何故って、僕はまだ小学生だったし、ひとりで留守番するのは難しかったんだ。それに、だからって、実の親がいるのに父さんが出かけるたびに施設や親戚に預けられるっていうのは、なんだか違う気がしたからだ。
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