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――――――「もうすぐ完成なんだね」
戸口の所から、アトリエ代わりの小部屋にいる父さんの背中に向かって、僕がそう声をかけると、父さんは振り向いて少し笑った。
「ああ、もう少しで完成だ。今回の作品はかなりイメージ通りに描けそうだよ」
「そうなんだ」
「あと、一週間くらいで完成だな。そうしたら、今度はもっと暖かい所へ行こう」
「暖かい所?」
「ああ。今度は南の春の風景を描こうと思っているんだ。九州か四国あたりで」
「ふーん」
「雪が止んで春が来たら、この寒い地方ともさよならだぞ、晋」
「……うん……」
雪が止んで、春が来たら。
僕はわざと何でもないふうを装って、小部屋を出た。
別にいつものことだった。
旅をしながら日本中の風景画を描く父さんとの生活に不満などない。
いつだって、ひとつの所に半年も居たことなんかなくて、此処にはまだ長く居たほうで。
「…………」
いつもと同じなのに。
それなのになんで、こんな妙な気持ちになるんだろう。
雪が止んで春が来たら。
そう聞いた時、僕は泣きそうだったんだ。
どうしてか解らないけど、今にも泣きそうに哀しかったんだ。
めちゃくちゃにキャンバスを切り裂いてやりたいほど。
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