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まるが立ち止まった。
見下ろしたところで視界に入ってくるのは、茶色く丸い背中と、つい先月まで通学用に履いていた真っ白なスニーカーだけだ。
後方からは、足音が聞こえる。
少し、大人げなかっただろうか。
「ごめん」
低い声は、思い描いていた美人さんのそれではない。
「なにが」
返事は聞こえない。
耳に入ってくるのは、ゼエハアという荒い息だけだった。しかも、足下からの。
空を見上げる。
もう薄暗い。そろそろ帰ろうか。
「今日のこと」
「あっそ」
「でもあれは、ハル...青山のことじゃなくって。前のやつが」
「いいよ別に。気にしてないから」
まるを抱え上げる。
左腕にずしりと重みが加わる。腕の中では、ラッキーとでもほくそ笑んでいそうだが。
追いかけてきたのを、そのまま通り過ぎてしまいたかった。
「嘘吐き」
知るか、そんなの。
「通して」
チッ。舌打ち。これは私の。
ぐっと視線を上げてやらないと、腹立つほどにキレイなお顔はのぞめなかった。
「友だちが欲しいって思っちゃダメなの」
ゆっくりまばたきをされるのが、惨めさを増幅させた。
唇をかむ。
「1人は嫌だって思っちゃダメなわけ?」
左腕が辛くなって、まるを下ろす。
え?マジ?とでも言いたげに見上げてくるのは、この際無視だ。
「そんなことない」
低く、掠れてるくせに優しさと懐かしさを感じさせるのはどうしてだろう。
「だからさ、こうしよう」
このタイミングで見上げちゃいけなかったのを、私はまだ知りませんでした。
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