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初めての、たったひとりの。
「あら、ふたりとも『ハルちゃん』なのね」
顔を見合わせたのは、目鼻立ちのくっきりした美少女でした。
「あーもー...お前だけだよ、お友達」
どうかお願いします。
他人ん家の犬小屋で居座っている女子高生を見つけたとしても、通報するまで少し待ってください。
「せっかく練習したのに...」
なあ、まる。
声を掛けると、わかっているかのようにしっぽを振ってみせる。
背中に隠し持った食パンがかぎ分けられたかもしれない。
「あーあ、暗黒の3年間決定じゃん」
頬を優しく舐めてくれるのは、『食パン早くよこせ小娘!』とでも主張しているのかもしれない。
でも今は、慰めてくれていると信じよう。そうしよう。
「もう私にはお前だけだよ、まる」
隣家のおばあさんの飼い犬、柴犬のまる。
私が遊びに来だしたときには既に飼われていたから、りっぱなおばあさん犬である。
幼い頃から、友だちを作るのが苦手だった。
幼稚園に入ってすぐ、人の多さに身構えてしまったのが間違いだったのかもしれない。
気付けば周りの子はどこかのグループにいて、ぽつんとひとり、みんなの後ろを歩いていた自分がいた。
どうしてここまで遡るのか?
幼稚園から中学までほとんど顔ぶれが変わらない田舎の公立教育機関において、一度「変わり者」の烙印を押されてしまうと、その扱いやイメージは変わらないから。
学校選択ができる高校を遠方にしたのも、ひとりぼっちの自分を変えたかったからだ。
制服を見た農家のおじいさんに「賢いんだね」と声を掛けられて気をよくしたわけではない、たぶん。
それなのにこの私ときたら、運命の入学式翌日早々にやらかしてしまったわけで。
「青山遥香です。好きな動物は犬、愛読書は」
しまった。
斜め後ろから鼻で笑われたのがわかった。
こういうのは振り返ると負けなのを理解しているはずなのに、反射的に振り返ってしまった。
教室窓際の、1番後ろ。男子。
先生が慌てて続きを促してくれたけれど、絞り出して出てきたのは
「1年間よろしくお願いします」
たったこれだけ。
さらに悪いことに、すぐ後に自己紹介をした男子が好きな芸能人の話をしてウケたものだから、惨めさが増してしまった。
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