忘れられぬあの子は

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せめて冷静にクラスメイトの自己紹介を聞いておけば良かったのに、ただ机の木目とにらめっこすることしかできなかった。 言い訳がましいが、別に生涯の親友が欲しいわけじゃない。 毎日一緒に登下校できる友人が欲しいわけでもない。 教室移動の時にひとりにならなければ、それでいい。 昼食の時やグループ学習のときに、自然と一緒になれるようなクラスメイトが欲しい。 この3年の一度だけでいいから、街に繰り出してプリクラを撮ってみたい。 高望みだろうか。 「ハルちゃんがいればなあ...」 ハルちゃんというのは、おばあさんのお孫さんのこと。 同い年で小さい頃によく遊んだ記憶があるが、もう十年も前のことだ。 ままごと、鬼ごっこ、かくれんぼ。幼稚園で流行っていた遊びを、めいっぱいやった。 おばあさんは「ふたりとも『ハルちゃん』ね」なんて手を叩いて喜んでくれたけれど、あちらのハルちゃんは目鼻立ちのくっきりした美人さんだった。 今はどうしているのかもわからない、たったひとりの、初めての友だち。 「まるはハルちゃん、知ってる?」 ガツガツと食パンを食らう姿は、年齢を感じさせない。そんなところも、気持ちがいい。 「あら、遥香(はるか)ちゃんじゃない。いらっしゃい」 「お邪魔してます」 立ち上がってお辞儀をすると、ローファーが砂まみれになっていることに気付いた。 家に入ったら払っておかないと。 「遥香(はるか)ちゃんも(めい)高なの?」 も? はいと答えつつも処理しきれない私をよそに、おばあさんは手を叩いてにっこりしている。 「ほら、こっち」 手招きでやって来たのは 「孫の暖季(はるき)です。覚えてる?」 「......」 スーパーの袋を提げたまま丁寧にお辞儀をしたのは、見覚えのある制服を身にまとった学生。 私の脳内は、ついに制御不能になった。足下を掬われる感覚、というべきか。 ハルちゃんが履いているのがズボンだったから? その男子生徒の顔に見覚えがあったから? 教室窓際の、1番後ろ。男子。ハルちゃん。
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