僕とそいつと「おふろ」

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初めて「おふろ」に入ったのはいつの頃だったか覚えていない。ただ、雨の日だったことだけは確かに覚えている。 あの日、雨でずぶ濡れになった僕を大きな何かが拾い上げ、僕をどこかへと連れて行った。怖かったけど、抵抗する力も残ってなくて、僕はただ身を任せることしか出来なかった。僕は疲れていたらしく、そいつの中ですぐに眠ってしまった。 気がつくと僕は暖かい部屋の中にいた。身体には柔らかいタオルがかけられている。僕の目の前には先程の大きな何かがいて、僕を見つめていた。そいつは優しい口調で僕に話しかけた。 「おはよう。体、濡れてて寒いでしょ?おふろに入れてあげるね。あったかくて気持ちいいよ。」 僕には意味が分からなかった。しかしそいつは構わず僕を抱き上げ、またどこかへと連れて行った。 僕は白い部屋に入れられた。これから何をされるのか、僕は不安で仕方なかった。そいつはまた僕に構わず、入れ物に水を溜め始めた。入れ物に水がいっぱいになったところで水を止め、そいつは僕の方を見てこう言った。 「大丈夫。怖くないからね。おふろ入ってあったかくなろうね。」 そいつはまた僕を優しく抱き上げ、そして水の張った入れ物の中に僕を静かに置いた。 僕は驚いた。水が暖かかったから。冷えた身体に熱がじわっと染み渡った。気持ちいい。何だろうこれは。何かに包み込まれているようだ。衝撃と安心感で僕はいっぱいになった。僕がそいつの方を見るとそいつは微笑んで言った。 「おふろ、気持ちいいでしょ。」 そうか。これはおふろというものなのか。僕はそこで初めて水の張った入れ物を「おふろ」ということを知った。 それからはそいつに身体を拭かれたり、食べ物をもらったりした。一通り食べ終わった後、僕はまた眠りについた。 それからというもの、僕はそいつと暮らしている。そいつと遊んだり、食べ物を食べることは好きだ。でも、一番好きなことは「おふろ」に入ることだ。身体があったまるし、幸せな気持ちになれる。そして何よりも、「おふろ」に入っている僕を眺めて微笑むそいつの顔を見るのがたまらなく好きなのだ。
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