1。洋館

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1。洋館

 都心の繁華街を自動車で四、五十分程度北に向かって進むと、広く大きな河に出っくわす。 当然、河の向こう岸に渡るには、橋を通らなければならないが、橋はいつも渋滞している。その河には三か所、橋が架かっている。 がその三ケ所共いつもノロノロ運転状態。 スムーズに走れるのは真夜中の午前零時から朝方四時ごろまで。 特にひどいのは朝の通勤時間帯だ。車の時速が十メートルに落ちるのだ。一時間に十メートルしか走らない車は、もう車ではなく、例えて言うなら鉄のカタツムリ、鉄のナメクジと言い変えていいだろう。 まあ、そんなことで川の向こうの住民は交通渋滞にみんな頭を悩ましているのだ。 元はと言えば五年前に河向こうにできた新興住宅地のせいだ。 山を切り開いて十万世帯の宅地開発が行われたのが二十年前。 都心からは河を隔ててはいるが、距離的には車で十分圏内のベッドタウン。 宅地完成時には、購入者が殺到した。 倍率三百倍以上の難関を突破した幸運者がその新興住宅に住み着いた。そして、その地域の人口が二十万人になるのにニ年とかからなかった。 役所は交通渋滞を見込んで、都心に通じる幅広の吊り橋を三か所設けた。これで交通問題は解消すると見込んで、公共の交通機関を整備しなかった。 ところが、年を経るごとにその地域の人口は数万単位で増えていく。 理由は、次から次へと、開発業者が山を崩して住宅開発を行い、建売や宅地販売を行ったからだ。 役所は役所で住民が増えれば税収が増えるという、安易な考えで業者に開発許可を無節操に与えてしまった。ということで、今では人口三十万を超える超巨大ベッドタウンとなってしまったのだ。    
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