バス停

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 バスが見えなくなると、皆は合掌をやめそれぞれの行き場所に向かって行く。人影が無くなった頃、一人だけ残っていた年配の男性が、携帯電話をポケットから取り出し連絡する。 二、三のやり取りをした後、その男もバス停を離れていった。  男が電話していた相手が受話器を置くと、ノックの音がした。 「失礼します。社長、例の特別出張の件、無事に進んでいるそうです」 「ああ、ご苦労。他に変わったことはないかね」 「特にはないです。業績は相変わらず右肩上がりで、景気によって上がる角度が変わりますが、わが社は毎年順調です」 「そうか、社員だけでなく社員の家族達も変わりないかね」 「ええ、それなりに家庭特有のゴタゴタはあるようですが、それも他人から見れば幸せといってよいと思います」 「それならよろしい、下がりたまえ」 社長が社長室から退室するように促すが、社員は動かない。社長がどうしたと顔を見ると社員が口を開いた。
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