お風呂

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お風呂

 窓に映る自分の顔を見る。分かってはいるのだが、やはり目の下のクマが酷い。目線を少し下げると闇の広がりが見える。 冷たい風が?に強く差し込む。空には虚しくかがやく星。こんな憂い日々はいつまで続くのだろう。あくまでも今日という一日は、果てしない数直線の中の一点である。  家に入れば、そこは自分だけの小さなオアシスだ。そのままベットに身を委ねたい気持ちを抑え、浴室へと向かう。睡眠時間が惜しい私は、普段はシャワーだけで済ませてしまう。湯船に本当は浸かりたいが、掃除してお湯張ってというのを自分一人のためだけにやるのは、社会構造の下っ端の私には到底無理である。  シャワーを浴びようと蛇口をひねる。と、そこから流れてくるべき四十度のお湯は一滴たりと落ちてこない。代わりに出てきたのは大量の冷水。慌てて蛇口を戻すが、すでに手遅れだった。ブルブル震える体をなんとかバスタオルに包みこみ、私はため息をついた。  なんとか体温を維持できる服に収まり、リビングの棚の奥底からホコリをかぶった取扱説明書を取り出す。くしゃみをしながら目的のページを探し出すと、そこには「月曜日から金曜日 午前十時から午後五時半」という文字がお客様センターの連絡先とともに印字されていた。私はまた一つため息をつき、こたつに潜り込むとスマートフォンを取り出した。 とりあえず「シャワー お湯が出ない」で検索してみる。こんなときインターネットは便利だななんて考えている間に、検索結果は表示された。郊外のミッドタウンでもこの時間帯にまだやっている業者は流石に無さそうだ。今日一日応援で力仕事をしただけに体臭は自覚できるほど酷いものだ。明日は重要な取引先との懇談だというのに、汗臭い身体では埒が明かない。どうすればいいものだろうか。いくつか記事を漁ってみると、湯張りならできる故障パターンもあると書いてあるものがヒットした。しょうがない。私はこたつから抜け出したがらない身体を無理矢理引き離した。
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