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反対車線の誰そ彼
夕暮れ。小さな頃お祭りでねだったわたあめみたいな、ちょっとの嘘が見え隠れする桃色の雲が二つ三つ、並んで浮かんでいる。
今日はそんなに良いことのない一日だった。
正しく言えば大抵の日は、そんなに良いことなんてない一日だ。
濃紺の制服を纏って、少女たちがきらきらと笑いながら素足を夕暮れにさらし駅のホームへ駆けてくる。とうの昔にその色を脱いだわたしの足は、薄くてまるで意味のないようなストッキングに包まれて佇む。あの頃には、ストッキングの存在理由なんてわからなかった。すぐに伝線して破けてしまう、大人たちを守る脆弱なうすい皮膚。風が繊維の隙間を縫って肌に触れる度、わたしは無表情のままで夜を想う。
何も恐れる必要のない少女たちは守られるべき存在で、何かを恐れてばかりいるわたしは、もうとっくに誰かを守る側に身を置いているはずだった。それなのにどうしても、わたしはわたしの人生の真ん中を見据えられないままでここにいる。さらに厄介なことに、生きていくということは、求めすぎなければ然程むずかしいことではないということにもわたしは気づき始めていた。
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