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   プロローグ  何もかもコンピュータのせいだ。左衛門三郎 助(さえもんざぶろう たすく)は嘆いていた。そうだ、コンピュータのせいで彼の高校生活はめちゃくちゃなのだ。  遺伝子認証、ボイスコマンド、接触型ホログラムインターフェース――確かに、百年前のコンピュータに比べれば、使いやすくはなったのかもしれない。ここ数年はNebulAIとの事実上の戦争の影響もあり、科学技術が急速に進歩したのも事実だ。だが、彼だけはその恩恵を全く受けられずにいた。むしろ彼にとっては進歩こそがありがた迷惑だったのである。 『警告。ここは男性用便所です。女性用便所ではございません。女性用便所は男性用便所を出て右側にございます』  彼がトイレに駆け込んだ瞬間、コンピュータが冷たい声でそう言った。彼に集まる視線。彼は思わず個室に逃げ込んだ。耳を澄ますと人々の嘲笑が聞こえてくる。いつものことだった。コンピュータが彼を女性と誤認識するのである。  不幸なことに、先週のシステムアップデートから事態はさらに悪化していた。トイレを出るまでは警告が止めどなく繰り返されるようになったのだ。ここまで騒がれては、用を足し終えても外に出る気になれない。狭い個室の中で、鼻で息をせぬよう心がけながら、人の気配が去るのをじっと待つしかないのだ。彼は苦笑せずにはいられなかった。  トイレを出ると、入れ違いに入ってきた初老の男性清掃員と目が合う。清掃員はニヤニヤと笑いながら、「まあ、気にすんな」とつぶやくように言った。    いつかコンピュータをぶっ壊してやる、と助は拳を握りしめた。
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