夜桜とフリージャズとウィルキンソン

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――背負い込んだふりをして   大人ぶって分かった気になって   まだ、何者でもなかったあの日   もう、何者かになってしまった僕には許されない   夜桜とフリージャズとウィルキンソン   そんなカッコつけな自由   なぜだろう   もう戻れないはずなのに   今夜だけは、あの夜が無性に恋しい――  どうやら、少し眠ってしまったようだ。知らない間に、日は沈み辺りは随分暗くなっている。淡い期待を抱き、辺りを見渡す。  だが、彼はまだ来ない。 「そんな10年も昔の約束を覚えているわけないか」  僕は独り呟き、公園のベンチから立ち上がり歩きだす。  名残惜しい気持ちに駆られ、少し振り返り桜を眺める。  と一際大きな風が吹いた。  まだ咲いたばかりの桜の花が目の前を流れていく。僕はそのあまりの美しさに目を細める。  ……そして風が止み、目を開けた先に見知らぬ誰かが見えた。  まだ若い少年だ。先程まで自分が座っていたベンチに腰かけている。  左手にはウィルキンソン炭酸。  ヘッドフォンから微かに漏れてくるフリージャズ。  いや、見知らぬ誰かなんかじゃない。紛れもなくあの日の。10年前の、自分自身だった。  何を言うでもなく、ただ、ぼんやりと見つめ合う。     
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