0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
――背負い込んだふりをして
大人ぶって分かった気になって
まだ、何者でもなかったあの日
もう、何者かになってしまった僕には許されない
夜桜とフリージャズとウィルキンソン
そんなカッコつけな自由
なぜだろう
もう戻れないはずなのに
今夜だけは、あの夜が無性に恋しい――
どうやら、少し眠ってしまったようだ。知らない間に、日は沈み辺りは随分暗くなっている。淡い期待を抱き、辺りを見渡す。
だが、彼はまだ来ない。
「そんな10年も昔の約束を覚えているわけないか」
僕は独り呟き、公園のベンチから立ち上がり歩きだす。
名残惜しい気持ちに駆られ、少し振り返り桜を眺める。
と一際大きな風が吹いた。
まだ咲いたばかりの桜の花が目の前を流れていく。僕はそのあまりの美しさに目を細める。
……そして風が止み、目を開けた先に見知らぬ誰かが見えた。
まだ若い少年だ。先程まで自分が座っていたベンチに腰かけている。
左手にはウィルキンソン炭酸。
ヘッドフォンから微かに漏れてくるフリージャズ。
いや、見知らぬ誰かなんかじゃない。紛れもなくあの日の。10年前の、自分自身だった。
何を言うでもなく、ただ、ぼんやりと見つめ合う。
最初のコメントを投稿しよう!