夜桜とフリージャズとウィルキンソン

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 音楽なんか何にも分からない。でも俺は不思議とこの曲を気に入っていた。  やれ高校受験だの、やれ最高学年だの。そんな面倒臭いことを考え過ぎてパンク寸前の頭の中。そんな悩みを忘れられるくらいの激しさが、今は気持ちがいい。  クライマックスを飾るシンバルロールが鳴り止んだ。アルバム内の曲を再生し終えたプレイヤーは黙りこみ、再び公園には静寂が戻る。  静かになるととまた、学校や家での面倒なことが頭に浮かんでくる。 「何か悩んでるのかい」  彼は尋ねた。 「……さあ、どうだか」  悩みというか、なんというか。  いや、これは多分不安だ。この先うまくやっていけるか。失敗せず躓かず進んでいけるか。  そして、自分を縛るものに潰されてしまわないか。   そんな、ぼんやりとした不安。 「そんなに重く悩み過ぎるならいっそ投げ捨ててしまうのも手だが……」  俺の顔も見ずに、彼は言った。 「君の背負ったもの。背負ったと思い込んでいるもの。それは君が掴みとったものじゃないのかな」 「掴みとった?」 「そう。君が自ら選んで、自ら掴みとったもの。だから、君は何かに縛られてるなんてことはない。だから…… 」  彼は勿体振るように、一呼吸を開ける。 
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