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「君の思うように進めばいい」
彼は俺に微笑んだ。
この言葉が俺の不安を吹き飛ばした。
この言葉だけで俺の不安を吹き飛ばすには十分だった。
そうだ、俺は背中を押してほしかったんだ。今のままでいい。お前のままでいい、と。
出会ったばかりの人に自分の一番言って欲しい言葉を言われると、なんだか気恥ずかしい。
「……なんでもお見通しなんですね」
「まあ、大人だからね」
「大人になれば何でも分かるんですか」
「子供よりは分かることも多いだろうね」
子供であることをからかわれているようで、少し不貞腐れる。
「なんか、子供はダメみたいな言い方ですね」
「そんなことはないさ」
そんな俺を慰めるように、柔らかい眼差しで彼は言った。
「今の君は何者でもない、ただの子供だ。でも、だからこそ何者にでも成り得る。僕はもう、僕にしか成り得ないからね」
「……それ、トンチか何かですか?」
彼は、ふっと笑った。
「そうだね、ただのトンチさ」
彼の笑顔を釣られ、俺も笑う。
「さて、そろそろお開きにしようか」
軽く手を降り、彼は背を向けて歩き始めた。
「……あの」
俺の声に反応し、彼は歩みを止めた。
「その……」
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