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何か言わなければならない気がするのに、舌足らずな口は上手く言葉を紡げない。
「……また、出会えますか」
結局、こんな気の利かない言葉しか出てこなかった。
「ああ、また出会えるさ」
彼は答えた。まるで定められた出来事であるかのように、即答だった。
「なら約束だ。10年後のこの日この時間に、この桜の公園で会おう」
「……10年後、ですか」
10年後か。今の俺には、まったく想像も出来ない。
高校に入って、大学に入って、社会に出て。
別れて、出会って、また別れて。
その時の俺も元気でやっているのだろうか。
「そんなに心配することはないよ」
彼は自信満々に言った。
「確かに、これから辛いことも悲しいことも沢山あるさ。でも、後から振り返ってみて思うんだ。そのどれもが、必要な事だったって。全てが今の僕を作っている要因だったってね」
「本当ですか?」
「僕が言うんだ。本当さ」
もう一度、彼は名残惜しそうに桜を見上げた。
「僕が歩んだ以上に、良い未来を歩んでくれよ」
それだけ言うと、彼はまた歩き始めた。その後ろ姿も、舞い散る桜にかき消され、そのうち見えなくなった。
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