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目の保養さま
田舎の小さな駅とはいえ、朝の通学時間帯はそこそこ混雑している。
木野桜子は、友達と連れ立ってホームへ向かう。
入学したばかりの高校は、電車で三駅の隣市にあった。中学の同級生の半分ほどが隣市の高校に進学していて、だいたい同じ電車で通っている。だから、制服は違っても中学の延長のような感覚だった。
「ねぇ桜子、それ寒くない?」
四月とはいえ、この地方はまだ肌寒く、女子高生の多くが制服の上にコートを着ている。その中で桜子だけが薄手のカーディガンだった。
「失敗したかも。お天気にだまされた」
晴れて日差しはまぶしいのに、風が冷たい。外へ出たとき寒いかなと思ったのだが、コートを取りに戻るのが面倒で、そのまま来てしまった。
「ジャージ履いてたら?」
「高校でもそれはありなの?」
「え、だめかな!?」
おしゃべりしながら電車に揺られること二十分。目的駅に到着すると、またねと手をふり、それぞれの学校へ向かう。
桜子はさりげなく輪から外れ、駅構内に戻った。友達には内緒の密かな楽しみのためだ。
ここは新幹線も停車する駅なので、改札が広く利用客も多い。見逃さないように、ホームから向かって来る人の群れに目をこらす。
「いた……!」
ホーム側を歩いて来る人の群れの中に、黄色っぽい髪が見えた。ゆっくり改札に近づいて来る。
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