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他人から見れば、今までの私の人生は幸せなものではなかったと思う。両親は物心つく前からいなかった。でも、我ながら薄情であるとは思うけど、それについて悲しいと思ったことはなかった。
悲しいと思ったことはなかったけど、悔しいと思うことは多かったように思う。私が悲しいと思うことは私にしか分かり得ないことなのに、周りの人間は──特に、距離がそこまで近くもない大人たちは──幼い私の気持ちを勝手に枠にはめてしまった。何故かそれがとても悔しかった。
祖母が遠くの病院に行っていて、授業参観に親類が来られなかったことがあった。小学生の低学年の頃だ。そのとき偶然聞いてしまった「お父さんとお母さんがいなくて可哀想」という誰の言葉ともわからない大人の言葉は、力づくで私の心の柔らかいところを変形させようとしてきた。腹が立って仕方がなくて、でもその場では泣けなくて、通学路で私は泣いた。体の水分がすべて涙になって出て行ってしまったんじゃないかと思うくらいに泣いて泣いて私は祖母に訴えた。
「なにも悲しいことなんかない!」
不便はあった。周りの子と違って不満に思うこともあった。それでも祖母は私に優しく真摯に向き合ってくれていた。祖母が一生懸命幼い私と向き合ってくれていたことは、幼心にも分かっていたから、だから本当に悲しいことなんか無かったのだ。
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