湯の中の蛙

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 私は久しぶりに風呂の中に閉じこもった。昔よりも随分と窮屈で、でも何だかホッとした。風呂蓋を完全に閉じてしまえば、そこは外とは隔離された世界になる。一人きり。  そして私は思い出してしまった。こうして一人きりになると、最初のうちは平気でも、そのうちどうしようもなく心細くなってしまうということを。そんなとき、いつも私をここから引き上げてくれたのは祖母だった。でも今、祖母はいない。永遠に私はここから引き上げられず、一人きりになってしまった。泣けて泣けてしかたない。風呂の塩分濃度が上がっていく。 「美弥子」  しくしく泣いていると声がした。祖母の声だと思った。 「美弥子」  二回目の呼びかけは少し怒っているような声音だった。よくよく聞いてみると祖母の声では無い。決まっている。だって祖母はもういないのだ。  風呂場に住まう妖怪みたいになってしまった私に彼は辛抱強く声をかけ続けた。応える気にはなれなくて泣き続けていたら風呂蓋が遠慮のエの字も無いくらいの勢いで開けられた。 「煮蛙にでもなりたいのか」  濡れるのなんてお構いなしに、普通に服を着たままの彼は裸の私を風呂から引きずり上げた。肩に掛けてたバスタオルをぐるぐる私に巻き付けて、やっぱり少し怒っているようだった。彼はぎゅうと私を抱き締めた。 「美弥子が風呂に引きこもったら伝えてくれって言われてた」     
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