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トロッコ問題の犠牲者は納得するのか
ユーナが再び、私物を取りに連絡船に向かおうとした時だった。
通信機を前にしたタローの憔悴した様子が『只ならぬ状況』を告げているのだと、ユーナは感じ取った。
何があったんだろう?
不安を抱えながら足をとめ、タローの元に近づく。
「ふう……」
タローが、深い溜め息を漏らす。
「何か、あったんですか……?」
おずおずとユーナが尋ねる。
「……」
タローは暫くの間、無言だった。そして、大きく深呼吸をしてからユーナの方に向き直った。
「……『来れない』ってよ」
ボソっと、タローが呟く。
ユーナには、『それ』が何の事なのか、すぐには理解出来なかった。
「えっ……? 『来れない』って。何がですか?」
タローは険しい表情のまま、下を向いてユーナと顔を合わせようとしない。
「だから『救護船』だよ。急遽、『行けなくなった』って連絡があったんだ。今」
「え……?」
ユーナは、頭の中が真っ白になった。
「『行けなくなった』って……。ど、どういう話なんですか、それ?」
タローは左手で自分の額を押えるような仕草をしている。
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