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終わり。
冬が終わり、春に向けての準備が始まる。
しゅんやくんが引越す今日。
私達は最後に、桜の木の下に集まっていた。
「今年は早かったな」
「うん。まだ満開ではないけどね」
桜の木を見上げると、そこにはちらちら咲いている蕾があった。
「なんだか、桜って私達に似てるね」
私の何気ない一言に、しゅんやくんは首を傾げた。
私は、ふふっと笑って続けた。
「小さな蕾から、桜が咲くでしょう? だから、夢を叶える前が蕾で、夢を叶えて満開に咲くんじゃないかなって」
「たしかにそうだな。じゃあ、俺らも満開に咲かないとな」
「うん。でも、夢を叶えてからが本番だからね」
「分かってるって」
しゅんやくんは笑った。
すごく、輝いて見えた。どの景色よりも、綺麗だった。
「ねえ、しゅんやくん」
私は口を開いた。
残された時間はあと10分。
私は後悔なんてしたくなかった。
「今まで本当にありがとう。私、しゅんやくんがいたから、少しだけ変われたよ」
「そんなことない。俺の方こそ、さきに救われた。ありがとうな」
今までに見た笑顔の中で、1番優しい笑顔だった。
そして、私の頭をぽんと撫でた。
何も言わずに、背中を向けてゆっくり歩き出した。
だめだ。
涙が瞳に溜まって、今にも流れてしまいそうだった。
なんとか耐えて、私は声を張り上げて言った。
「夢が叶ったら、またこの桜の木の下で会おうね!!」
しゅんやくんは驚いたような顔をして、振り返った。
涙が止まらない。そんな私を見て、彼は優しく笑って、手を上げた。
「ああ、絶対会おう! またな!」
そう言って、歩き出す。
始まりも終わりも、この桜の木の下だったな。
私はそう思って、ふっと桜の木を見た。
小さな蕾も私の瞳には綺麗に映った。
私は笑って、もう一度彼の背中を見る。
そして、頑張れって言うように大きな声で言った。
「またね!」
ありがとう。
ずっと忘れない。
大好きだよ。
END
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