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お父さんは昔から、「足が伸ばせるお風呂」が欲しかったらしい。
兄弟が多く、ただでさえ狭かった浴槽に節約のためと男二、三人がぎゅうぎゅうに詰め込まれたために、幼い頃のお父さんにとって、疲れを癒すためのお風呂はただの苦行だったらしい。
それからお父さんの夢は、「足が伸ばせるお風呂」でゆったり鼻歌を奏でることになったそうで、誕生日なんかで兄弟が野球のグローブや、サッカーボールを母親にねだる中、お父さんはジャグジー付きのお風呂が欲しいと言っていたそうだ。
そんなお父さんの長年の夢が叶ったのは、私が小学校に入学した時だ。
それまで住んでいた二階建ての鉄筋アパートに別れを告げ、サラリーマンとして朝から晩まで地道には働き、コツコツ貯めたお金で今住んでいる一軒家を買った。もちろん、決め手はお風呂場だったという。
長年、頭の片隅に思い描いていた足の伸ばせる浴槽を見たお父さんは、まだ湯船のない浴槽に飛び込み、尻を打ちつけて、「イタタッ!」と喚きながらも、「見ろ!豪華客船みたいだろ」と当時6歳の私よりもはしゃいでいたのを覚えている。
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