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 お父さんのお風呂への思い入れは止まらず、お風呂掃除は必ずお父さんがした。決して、お母さんや私が無理やりやらせているわけではなくて、野球選手がグローブを、サッカー選手がスパイクを手入れするようにお父さんは丁寧に浴槽を磨く。 「なんでお風呂掃除好きなの?」  幼い頃の私は、湯上りで腰にバスタオルを巻いたお父さんにそう聞いたことがあった。するとお父さんは、「夢を叶えた実感が湧くから」と言い、そして決まって、「ユズにも夢があるか?」と聞いてきた。けれど、当時の私には、夢なんてなかったから、お父さんの質問には小さく首を振るだけだった。  そして忘れてはならないのがお父さんは入浴中には必ず、「ウィー・アー・ザ・チャンピオン」を歌うことだった。  お父さんのお風呂ライブは家族の名物にもなっていて、居間にいる私とお母さんはお風呂場から聴こえるお父さんの歌声に、また始まったよ、と呆れながらも、顔を見合わせてよく笑った。  
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