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そんなお父さんを見て育ったからか、私もお風呂が好きになった。
幼い頃、シュノーケリング用の大きなゴーグルをかけて、顔のサイズに合わず隙間からお湯が侵入してくるのも構わずに湯船に潜ったり、浮かべたアヒルのおもちゃと合唱したり、「あと十秒数えたら出ようね」というお母さんの腕を引っ張り、「ダメ!あと百秒!」と言って、お母さんを茹蛸のようにしてしまったことだって何度もあった。
「そんなにお風呂とか、潜ることが好きなら水泳でも始めたら?」
水泳を始めたのはそんなお母さんの一言がきっかけだった。まさか高校生になった今でも続けているとは思わなかったけれど、性に合っていたのか、とにかく泳ぐことが大好きで、気づけば水泳は私の生活の中心になっていた。
プールで泳いで疲れ切った身体を引きずって家に帰り、お父さんの磨いたお風呂で今日一日の疲れを癒し、お母さんの手料理で明日への力をつける。そんな毎日を送る中で、いつしか私の夢は、「水泳選手」になっていて、小さな大会で1番になることも多くなっていた。
いつの間にか私も、「ウィー・アー・ザ・チャンピオン」を口ずさむようになっていて、お風呂から聴こえるお父さんの歌声にセッションしたりしていたのだけれど、そんなお父さんの歌声がお風呂から聴こえなくなったのは、私が小学校6年生の時だった。
その原因は、私だった。
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