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 その日、小学校最後の水泳大会があった。お父さんもお母さんも応援にきてくれていて、私も自分の一位を疑っていなかった。  けれど、私は五位だった。一位どころか表彰台にも立てず、今まで順風満帆で敗北を知らなかった私には初めての小さな挫折だった。  私はその悔しさと負けた原因を、お父さんのせいにした。泣いている私を笑顔で励ましてくるお父さんに向かって、「うるさい!」「毎日あんなに耳障りな歌聞かされるからだよ!」と、自分の実力を棚に上げて、私はお父さんを罵った。私の大きな声を聞いて、「止めなさい!」とお母さんが制するまで、ずっと。  その日以来、私はお父さんと口を利かなくなってしまった。  時折、お父さんのほうから私に声をかけてくれることはあったけれど、小学校を卒業し、中学生になっていた私は反抗期も相まって、些細なことに苛立って、傷つくような言葉を投げかける日々が続いた。  結局、お父さんとの仲は改善することはなく、中学の三年間は会話らしい会話など一言もしないまま卒業し、私は高校に入学した。  悪いのは私で、謝りたいとも思っているのに、なかなか一歩が踏み出せない。あの日言った自分の言葉が、心の中に溜まり込み私を溺れさせていた。
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