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その後もお父さんとの関係は浮上することなく潜水状態で息継ぎも出来ないまま、どんどん苦しくなる一方だった。なんだかもどかしい日々を送っていた中で、水泳部の監督に聞かれたことがあった。
「お前は、どうして水泳始めたんだ?」
監督の問いに私は、「お風呂が好きだからです」と答えていた。
監督はきょとん目を丸くした後に豪快に笑い出し、「さぞかし良いお風呂だったんだな」と言って、また笑った。
私はその時、お父さんが褒められているような気がしてなんだか嬉しくなった。それと同時に、私がこうして大好きな水泳を何不自由なく続けていられるのも両親のおかげなんだと、恥ずかしながら私はこの時になって初めてそのありがたみに心の底から気づいた。
お父さんにきちんと謝りたい。そんな思いが強くなっていたけれど、いざ言おうとしても、なかなか言う事は出来なかった。
そんな折、お父さんと仲直りのきっかけをくれたのは、お母さんだった。
ささやかな親孝行のつもりでお母さんの買い物を手伝っていた時、デパートのくじ引きで入浴剤があたった。お母さんは、「お父さん喜ぶねえ」と店員から入浴剤を受け取ると、なにか閃いたように私の手に入浴剤のセットを渡した。
「お父さんと、仲直りしたら?」
お母さんは笑って言った。くじ引きで当たった入浴剤は五等だった。あの日の、私の順位と同じ。私はなんだか縁のようなものを感じて、お母さんから入浴剤のセットを受け取ると、「うん。」と頷き、そろそろお父さんの誕生日ということで、その日に謝ることに決めた。
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