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思えば彼女に触れる時、私の言葉に反論する者は居なかった。彼女だけが私の名前を呼んだ。あの教室で彼女だけが私の固有名詞を呼んだ。その彼女を介すれば、私という存在は消えてしまっていた。私と教室を結ぶ者が彼女であったにも関わらず、彼女はまるで私の影響を受けずに生活をしていた。
今伝えた話の中に、私はいない。彼女と私は全く関係ない。彼女の中に私はいない。それなのに彼女の笑顔だけが私の脳に張り付いてしまっている。剥がれない。こびり付いている。彼女のあの屈託の無い純粋な笑顔だけが今も私の脳裏に焼き付いて離れない。剥がれ落ちてくれない。その情操だけが、私にあの現実を夢と懐疑させない楔になっているのだ。
考え過ぎだ、眠っていないのだろうと?いいや、逆なのだ。彼女を触媒に私という人間の存在が消滅するなど非現実であるということは承知である。だから夢なのだ。しかしここは現実だ。きっと私は今も眠っているのだ。夢と現実の違いすら見定められていないのだ。
今も、忘れられないでいる。彼女の顔が忘れられない。これは天罰なのだ。私への呪いなのだ。私が他者の信頼や正義の名の下に自我を創作し、それがどんなに愚かなことか考えもしなかった私への罰なのだ。
ただの被害妄想?君もそう言うのか?君もこれが只の勘違いというのか。多くの人間にそう言われてきた。私は現にここにいると。違う。そうではない。私という過去がここにあるだけだ。この呪いが解けない限り、私は未来を望めない。私の呪いが解けて、私の魂と生存証明がこの体に宿らない限り永遠に過去に幽閉されているのだ。
違う。そうじゃないんだ。頼む。待ってくれ。行かないでくれ。
私を、夢から覚ましてくれ…!
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