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私と彼女は次第に放課後共に帰ることが多くなっていた。ある日、同級生に「お前、昨日の帰り一人で喋っていて気持ち悪かったぜ」と言われて腹を立てた覚えがある。怒りよりも虐めの再発という不安が身を襲ったのだ。しかし彼女は笑っていた。それを見て私も安堵して笑った。
だが、そんな日も長くは続かなかった。彼女の手術日が決定した。その為、彼女は遠くの街に引っ越すこととなった。それを彼女に伝えられたのは引っ越す前日の話だった。
私は彼女を見送る為に当日は彼女の家まで来ていた。既に引越し業者が家具や荷物をトラックに載せていた。彼女は私を見つけると両親に一言告げて私の下に駆け寄ってきた。
「また、歩かない?」
私と彼女はあの雨上がりの日のように同じ道を歩いた。学校まで歩き、そして家へと帰る。その間に様々な思い出を話した。あれほど混濁に満ちていた川には命が蘇っていた。彼女はその命の輝きに心を打たれているようだった。
「今までありがとう。いつかまた会えると思うから、そしたらまた一緒に帰ろうね。」
彼女はそう言って笑った。家への帰り道、西陽が私の方へ落ちてくる。西陽に照らされて彼女は屈託の無いその笑顔を全て私に見せてくれた。
彼女はその日、引越していった。翌日には担任の教諭から彼女の転校について伝えられた。しかし聞いた話によれば彼女は最後まで手術を拒んでいたらしい。それを決めたのは両親だった。そう聞いている。
それ以来、私は彼女と会っていない。彼女が今どこで何をしているのかも把握していない。あの時、私の側にいた友人や知人からも彼女についての情報の一切が伝えられてこない。
私の中で彼女は中学二年生の時のままなのだ。
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