櫻梅奇譚

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 次の日から彼女は、どこからか水と食料をとってきて栗鼠に与えるようになった。  蓮の葉で掬った水と、食べられそうな花や実を栗鼠のもとへ持っていく。 「食え。何も摂らぬと次の桜が咲くまで保たぬぞ」  目の前へ差し出された水の入った葉を覗き、栗鼠の瞳が揺れる。 「すまぬ」  栗鼠は美味そうに音を立てて喉を潤し、花を食む。  その様がなんとも愛らしく、女は栗鼠を眺めて微笑んだ。  やはり腹が減っていたのだ。  しかし、食欲がないわけでもないこの栗鼠は、なぜ木の下から離れないのだろう。 「腹も空こうに、なぜ森の中へ戻らぬ?」  頬袋を膨らませた栗鼠は、女を見つめてもぐもぐと口を動かした。 「あいつに頼まれたのだ。花が咲いたら教えてくれと」  誰かに開花を告げるよう頼まれたのだろうか。 「次の春はまだ先じゃ。それまでここでずっと待っておらずともよかろう」  女の声に栗鼠は背中を丸めていった。 「森には戻りたくない……」  寂しそうなその声に、女はそれ以上声をかけることができなかった。
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