2人が本棚に入れています
本棚に追加
次の日から彼女は、どこからか水と食料をとってきて栗鼠に与えるようになった。
蓮の葉で掬った水と、食べられそうな花や実を栗鼠のもとへ持っていく。
「食え。何も摂らぬと次の桜が咲くまで保たぬぞ」
目の前へ差し出された水の入った葉を覗き、栗鼠の瞳が揺れる。
「すまぬ」
栗鼠は美味そうに音を立てて喉を潤し、花を食む。
その様がなんとも愛らしく、女は栗鼠を眺めて微笑んだ。
やはり腹が減っていたのだ。
しかし、食欲がないわけでもないこの栗鼠は、なぜ木の下から離れないのだろう。
「腹も空こうに、なぜ森の中へ戻らぬ?」
頬袋を膨らませた栗鼠は、女を見つめてもぐもぐと口を動かした。
「あいつに頼まれたのだ。花が咲いたら教えてくれと」
誰かに開花を告げるよう頼まれたのだろうか。
「次の春はまだ先じゃ。それまでここでずっと待っておらずともよかろう」
女の声に栗鼠は背中を丸めていった。
「森には戻りたくない……」
寂しそうなその声に、女はそれ以上声をかけることができなかった。
最初のコメントを投稿しよう!