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彼女は定期的に栗鼠のもとへ水と食べ物を持っていくようになった。
日差しはますます暑くなり、そしてある時を境に日に日に柔らかくなっていく。夏が過ぎ、秋が深まってきたのだ。
桜の葉も若々しい緑色から次第に枯れ葉色となっていく。
栗鼠は雨の日も風の日も変わらず桜の木の下で次の春を待ち続けている。女が運ぶ水と食料で空腹を満たし、日が落ちると桜の根元で丸くなって眠った。
日毎に冷たさを増していく風に、女は黙っていられず再び栗鼠へ声をかける。
「もう秋だぞ。そろそろ冬を越す準備をせねばなるまい?」
桜の木は秋風に揺れて乾いた葉音を立てるようになった。
栗鼠は枝葉をぼんやりと見つめている。
「そんな時期だな……」
女が運んで来たものを口にしているとはいえ、栗鼠の体の肉付きは貧相になっていた。強い風でも吹けばどこかへ飛んでいってしまいそうだ。
「しっかりと食べて眠らねば、冬は越せぬぞ」
「わかっている」
栗鼠はそういうが、だからと言って森へ食料を採りに行く様子もない。
動こうとしない栗鼠に女は焦れた。
「ならばなぜ冬支度をせぬ?」
このままでは死んでしまうのだぞと、女はきつい口調で諭す。
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