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女は怒りでいっぱいになった。
「少しここで待っておれ」
そういって栗鼠を木の根元へ優しく寝かせると、梅林へ向かう。
栗鼠に苦行を強いる梅どもを怒鳴りつけねば気がすまぬ。
小さくかよわき栗鼠に、なぜあのような仕打ちを。
「どういうつもりなのじゃ。健気な栗鼠をたぶらかしおって」
女がまっすぐ梅林の方へ進んで行く。
しばらく行くと、崖に行きあたった。
「これは……」
山がざっくりと切り崩されて、それまであったはずの梅林がごっそりと姿を消している。
「我は道を違えたのか?」
そう自分を疑いもしたが、そのはずはない。方向は間違っていないはずなのだ。
女はうろたえつつも水や昆虫を仕入れて栗鼠のもとへ戻った。
根元に横たわる栗鼠の腹はゆっくりと上下に動いている。
女は安心して栗鼠を揺り起こした。
「眠る前にこれを食べよ」
栗鼠は差し出された水と虫を言われるままに貪り始める。
女はその傍らで、桜の幹に穴を穿った。
桜に傷がつく。きっとそこから弱っていき、女の命も縮まるだろう。
しかし女は、花のかんばせを歪めながら自身に傷をつけていく。
こんな痛みよりも、今は栗鼠の命の方が大事だった。
彼女は自ら作り上げたうろの中に枯れ葉を敷き詰め、その中に栗鼠を優しくしまい込んだ。
「この中で眠るのじゃ。すぐに他の食べ物を持ってこようぞ」
女は甲斐甲斐しく世話を焼き、すやすやと眠る栗鼠を見守った。
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