櫻梅奇譚

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 栗鼠が目を覚ました時、彼の体は暖かな枯れ葉に包まれていた。暗く湿った空間の中に、外から冷たい空気が入り込んでくる。  そっと中から覗くと、森は真っ白に輝いていた。雪が降り積もった場所に、光が反射して眩しい。  栗鼠が周囲を見回した時、桜色の頬の女と目があった。  女はこの雪の中、薄紅色の薄衣を着て木に寄りかかっている。 「目が覚めたのか?」  そう尋ねられ、栗鼠は頷いた。 「ああ。これは、あんたがやったのか?」  うろの縁を叩いて尋ねる栗鼠に、女は微笑み返す。 「まだもう少し眠るがよい。我が咲くには今少し時間がかかる」 「俺はどれくらい眠っていた?」 「まだ春先じゃ。いつもならそろそろ遠くの梅林から香ってくるのに、不思議じゃな」  女は崖と化した梅林のある方へ視線を向ける。  栗鼠もつられて同じ方を見た。その瞳は悲しげだ。 「香らないのも当然だ。梅はもうないのだから」 「いつなくなった?」 「この木の桜が散った頃だ。人間に切られてしまった。土地もごっそりえぐられた」  桜はゆっくりと頷く。 「そうか……。だからここへ参ったのだな」  栗鼠は林の奥へ懐かしそうな視線を向けた。 「俺はある一本の梅に住みついていたんだ。そいつは変なやつでな」 「変なやつ?」  桜の問いかけに、栗鼠は鼻をすすって微笑む。
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