2人が本棚に入れています
本棚に追加
栗鼠が目を覚ました時、彼の体は暖かな枯れ葉に包まれていた。暗く湿った空間の中に、外から冷たい空気が入り込んでくる。
そっと中から覗くと、森は真っ白に輝いていた。雪が降り積もった場所に、光が反射して眩しい。
栗鼠が周囲を見回した時、桜色の頬の女と目があった。
女はこの雪の中、薄紅色の薄衣を着て木に寄りかかっている。
「目が覚めたのか?」
そう尋ねられ、栗鼠は頷いた。
「ああ。これは、あんたがやったのか?」
うろの縁を叩いて尋ねる栗鼠に、女は微笑み返す。
「まだもう少し眠るがよい。我が咲くには今少し時間がかかる」
「俺はどれくらい眠っていた?」
「まだ春先じゃ。いつもならそろそろ遠くの梅林から香ってくるのに、不思議じゃな」
女は崖と化した梅林のある方へ視線を向ける。
栗鼠もつられて同じ方を見た。その瞳は悲しげだ。
「香らないのも当然だ。梅はもうないのだから」
「いつなくなった?」
「この木の桜が散った頃だ。人間に切られてしまった。土地もごっそりえぐられた」
桜はゆっくりと頷く。
「そうか……。だからここへ参ったのだな」
栗鼠は林の奥へ懐かしそうな視線を向けた。
「俺はある一本の梅に住みついていたんだ。そいつは変なやつでな」
「変なやつ?」
桜の問いかけに、栗鼠は鼻をすすって微笑む。
最初のコメントを投稿しよう!