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後悔と憧憬
ーー敬吾は後悔していた。
三ヶ月前、この犬っころのような後輩の落ち込み様にほだされたこと。
数十分前、その欲望を受け止めてやってもいいかもしれないなどと血迷ったことを。
「いーーーーーーーー!」
「……、痛いですか、」
「いてえよ!馬鹿!!!」
眩しいはずもない仄灯りに目が眩むようで、敬吾はまともに自分の上にいる男の顔が見られなかった。
普段はもっと、自分の前では輪をかけて、歌ってでもいるのかと思うような声音で話すくせに。
今その声から音程が失われて、あまりに真っ平らでまともに聞いていられない。
恥を忍んで自覚すれば、少々怖い。
自分の中にその指が埋められているというのもまた、ただでさえ異常事態なのに一層恐ろしかった。
そもそもが下になるどころか同性愛者ですらない敬吾にとって、この状況は混乱の極みでしかない。確かに許容したのは自分なのだがーー
ーーもっとフォローしろ馬鹿。
幾度と無く心中に零す。
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