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桜の解釈の推移を必死で追い、やっとその笑顔に追いついて逸は笑った。
「がんばります……!」
「うん!そしてうちにお嫁に来て!」
「あっはいっ…………」
どちらかと言うと旦那なのだが。
そんなことを考える余裕まで取り返しながら、逸は桜に抱きつかれている。
一瞬の緊迫があまりに張り詰めていので、優しく緩めただけでも反動は大きかった。
「あ、じゃあ……電車来ちゃうのでお姉さんまた。河野さんも」
「絶対また来てね!」
「気を付けてね、逸くん」
「敬吾さんと都合が合えばぜひ」
「敬吾いなくてもいーからべつに!」
なぜか拗ねたような顔をして逸の手を離し、桜は一歩下がりながら笑って手を振った。
底抜けに明るい人だが、こういう不思議な淑やかさも敬吾に似ているーー
そう思うと自然と笑みが零れ、逸も二人に手を振って踵を返した。
ホームに入るとちょうど電車が滑り込んできたところで、目を引く細身の背中がその扉に踏み込んでいく。
それを大股に走って逸も追いかけていった。
「敬吾さん!」
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